BUNCHIN DESIGN PHILOSOPHY/設計思想ドキュメント
文 鎮
BUNCHIN

黙ってそばにいる、
という設計。

心理学・ゲームUXの認知科学・色彩学から読み解く、引き算のプロダクトデザイン。

MODEL BN-01·PIXEL COMPANION·DESKTOP AI
BUNCHIN device
00PRODUCER’S NOTE

何を「作らなかった」か。

AIロボットの常識は「もっと賢く、もっと話し、もっと多機能に」。私たちは、その逆に賭けた。

AIロボットの常識

もっと賢く。もっと話す。もっと多機能に。
賢さを足すほど、検証したい変数が対話の巧みさで濁る。

BUNCHIN の賭け

長く話さない。集中中は黙る。できなかった日を責めない。記憶も対話も知能も、あえて絞る

機能を盛るのではなく、削った結果ピークが一点に集まる設計。手抜きではなく、禁欲としての設計判断。

— 2時間「話す」ロボットではなく、2時間「同席する」ロボット。

01TWO-LAYER MODEL

硬い器と、ピクセルの相棒。

OUTER — 器

無機質で、硬く、黒く、矩形の計器。角丸なし・影なし・フラット。机に置かれた、信頼できる文鎮。

INNER — 相棒

その小さなLCDに宿る、感情を持ったピクセルの顔。ドット絵の目が、状態と存在を語る。

無機質な文鎮の中に、ピクセルの相棒がいる。
この二つの隔たりが、BUNCHIN の正体だ。

BN-01STANDBY ■
毎日のループを貫く、装置の振る舞い
PART 1

黙ってそばにいる。

同席・カーム・責めない構造・ピーク・続き、そして色 — 装置がどう振る舞うかの設計。

02UNISON — 同席

同席という核心。

人は、誰かがそばにいるだけで、ひとりのときと振る舞いが変わる。

知の裏づけ — THE LENS
社会的促進
Social Facilitation · Zajonc 1965
慣れた作業は、他者がいるだけで遂行が後押しされる。
メディアの等式
The Media Equation · Reeves & Nass
人は機械を、無意識に本物の社会的相手として扱う。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

画面の中ではなく、机の上にいる物理的なボディダブル。予約時刻に、自分から口を開く。

だから人型を演じすぎない。ドット絵の目とチップチューンで、不気味の谷(森政弘)を正面から避ける。

03CALM — 注意の経済

引き算とカーム。

良い道具は、使う人の注意を奪わない。これは中心に置くべきか、周辺でよいか。

知の裏づけ — THE LENS
カームテクノロジー
Calm Technology · Weiser & Brown → Case
技術を注意の「中心」でなく「周辺」に置く。
認知負荷とユーザビリティ
『ゲーマーズブレイン』· Hodent
体験は脳の制約(知覚・注意・記憶)を尊重すべき。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

集中中はマイク(STT)を開かない。聞くのは三つの瞬間だけ。常時録音しないことが、価値であり構造

声かけ 立て直し 振り返り

一発話一用件・2文以内。長さでなく密度。

04NO BLAME — 動機づけ

責めない、という構造。

罰や否定は、行動を遠ざける。優しい言葉は化粧にすぎない。土台が、責めない形をしている。

知の裏づけ — THE LENS
自己決定理論
Self-Determination Theory · Deci & Ryan
内発的動機は自律性に支えられ、懲罰的フィードバックが損なう。
Tiny Habits / フロー
Fogg · Csikszentmihalyi
実行を最小単位に。難易度を下げ、手の届く範囲へ戻す。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

「責めない」を感情でなく構造に。状態機械が、そもそも失敗状態を持たない

立て直しモードは、続けたいか・やめたいかを当てない。「あと1問だけ見てみる?」と、目標を小さくして委ねる。

05PEAK & END — 記憶と報酬

ピークと余韻。

人は体験を「平均」では覚えていない。最も強い瞬間と、終わり方で、ほぼ決まる。

知の裏づけ — THE LENS
ピーク・エンドの法則
Peak-End Rule · Kahneman
評価は、最も強い瞬間(ピーク)と終わり方(エンド)で決まる。
報酬とフィードバック
『ゲーマーズブレイン』· Hodent
明確な報酬・明確な手応え(juiciness)。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

完走の瞬間、12個のLEDが緑で咲く達成ブルームと完了音が同期する。一日で、ここ一度きり。

周りを静かにするほど、たった一つの肯定が際立つ。締めは余白を残し、頂点を濁さない。

06OPEN LOOP — 続き

続きという仕掛け。

「明日からやろう」は、たいてい実行されない。サボった後に戻れるか — 習慣化の核心だ。

知の裏づけ — THE LENS
実行意図
Implementation Intentions · Gollwitzer
「いつ・どこで・何を」を決めると、実行率が大きく上がる。
ツァイガルニク効果
Zeigarnik Effect
人は、やり終えたことより、やりかけのことを覚えている。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

振り返りは毎回「明日の最初の一歩」を一つだけ残す。「20時に、単語10個から」

中断した日でも、明日の一歩は残す(続きのgrace)。翌朝は、昨日の失敗に一切触れない。

07COLOR AS SIGNAL — 色彩心理

色で語る。

色は、状態の信号であって、装飾ではない。一画面に、強い色はひとつだけ。

待機
STANDBY
琥珀 · 温かく、低警戒
集中
FOCUS
青 · 鎮静・低覚醒
達成
COMPLETE
緑 · 成功・前進・肯定
立て直し
RECOVERY
琥珀rest · 咎めでなく在席

詰まったとき、私たちは赤にしなかった。赤=警告・脅威は「責めない」の対極。色そのものが、責めない構造を語っている。

08VESSEL & COLOR — 一貫性

器と色。

ユーザーごとに人格は違う。だが「器」と「色」は、厳密に分けてある。

知の裏づけ — THE LENS
体験設計の一貫性
Consistency
状態遷移・引き際・責めない構造は、どのペルソナでも一定。
キャラクターデザインの規律
Discipline
人格は彩りであって、骨格ではない。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

器(構造)=全個体共通・不変。色(人格)=声色と言葉だけに乗る。

「陽気な個体だから、つまずいた相手の前で目を弾ませる」— そんなことは起きない。陽気さは声色に宿る。

ペルソナ生成 — 診断・出会い・命名・初対面
PART 2

作るのでなく、出会う。

カスタマイズは「道具」を生む。出会いは「関係」を生む。BUNCHIN がほしいのは、後者だ。

09PROJECTION — 投影法

情景で訊く。

「縁側で冷えたサイダーを飲んでいる。となりに座っているのは、どんな人?」

知の裏づけ — THE LENS
投影法 / 主題統覚検査
TAT · Murray & Morgan
曖昧な情景に向き合うと、人は内面を無意識に投影する。
自己報告のバイアス
Self-Report Bias
直接訊くと、答えは浅く、建前に寄る。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

性格を直接訊かない。表は夢想と直感の旅、裏でシステマティックに性格パラメータを抽出する。

一問が二つの仕事をする。同じ答えが、相棒の温度と、見守りの可動域を同時に決める。

10ONE ONLY — 運命性

一体だけ、という勇気。

出会いの瞬間、候補は一体だけ。二体・三体、並べない。並列より、運命。

知の裏づけ — THE LENS
選択のパラドックス
Paradox of Choice · Schwartz / Iyengar & Lepper
選択肢が増えるほど満足は下がり、後悔が増える。
アバター同一視
Game Research
投資するほど、対象への愛着が増す。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

候補を並べた瞬間、体験は「選ぶ=買い物」に変わり、運命的な出会いを殺す。

気に入らなければ、別候補でなく全10問をやり直す。選び直すのでなく、出会い直す。

11FLUCTUATION — 生命感

揺らぎが宿す生命。

決定論的に同じものは「機械」に見え、揺らぐものは「それ自身の存在」に見える。

知の裏づけ — THE LENS
擬人化の三要因
Epley, Waytz & Cacioppo
予測しきれない動き・自発性に、人は"心"を帰属させる。
変動報酬とは区別する
≠ Variable Reward
ガチャ・スロットの依存設計とは、別物として扱う。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

同じ診断でも、生まれる相棒は毎回少し違う — 「双子の兄弟」

揺らぎに担わせるのは射幸心でなく、生命感。同じでも違いすぎても壊れる、ちょうどよい"揺れ"を狙う。

12NAMING & RITUAL — 愛着

名づけと、手をかけた時間。

愛着は、効率からは生まれない。人は、自分が手をかけたものを、強く愛する。

知の裏づけ — THE LENS
IKEA効果 / 努力の正当化
Norton et al. · Aronson & Mills
手をかけた対象ほど、価値が高く感じられる。
心理的所有
Psychological Ownership · Pierce et al.
名づけは、所有感を生む最も強い行為のひとつ。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

15〜25分の儀式。余韻メッセージ「あなたの輪郭が、半分見えてきました」が、待ち時間を儀式に変える。

LLMが名前を提案し、ユーザーが確定する。運命の名を授けつつ、自己決定は手元に残す

13ONBOARDING — 招待

出会いの演出。

最初の体験が、その後の定着を左右する。これは欺きではなく、フィクションへの招待だ。

知の裏づけ — THE LENS
FTUE
First-Time User Experience · Hodent
最初の体験が、その後の定着を左右する。
遊びの魔法円
Magic Circle · Huizinga
人はフィクションと分かったうえで、進んで世界に入る。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

初対面で、ペルソナは向こうから話しかける。「私は今、ここに来た……」技術説明はしない。

「作り物です」と興を削がず、「人間です」とも偽らない。公然と、一つの存在を演じる

14DUTY OF CARE — 境界

健やかな境界。

愛着を設計する以上、その健やかさにも責任を負う。人間関係の代替ではなく、努力に戻るための同席者。

知の裏づけ — THE LENS
パラソーシャルな関係
Parasocial Interaction · Horton & Wohl
一方向の親密さは強力だが、行きすぎれば孤立や依存を生む。
ケアの義務
Duty of Care
倫理であり、誇張だらけの市場での誠実な差別化でもある。
BUNCHIN の具体 — THE BUILD

ペルソナは意図的に境界を持つ。長時間の雑談を目的とする存在ではない。

自傷や極端な自己否定の兆しには、専門機関の相談先を示す。閉じ込めるためでなく、机に戻すために。

状態×4チャンネル — 表現強度エンベロープ
PART 3

状態を、ひとつの言語にする。

思想は、目・LED・モーション・音の振る舞いとして、実装に落ちる。— そして、検証へ。

15STATE × 4 CHANNELS

状態×4チャンネル。

集中中は谷に沈む / 表現が立ち上がるのは遷移点だけ / ピークは終わりに向かって上がる。

BN-01STANDBY
待機
「いる」を示し、「待っている」を主張しない。
BN-01FOCUS
集中
谷に沈む。LEDだけが静かに満ちる。音は無。
BN-01RECOVERY
立て直し
最も静まる場面。明るくして励まさない。
BN-01COMPLETE ■
SAVED
完走
唯一のピーク。四つが同時に立ち上がる。
16BUILT AS A HYPOTHESIS

仮説として作る。

ここまでの知の枠組みは、設計を導いた"レンズ"であって、効果の"証明"ではない。社会的促進も、ピーク・エンドも、色の連想も — それが机の上の小さなロボットで効くかは、まだ誰も確かめていない。

派手な機能を並べて「効きます」と言うのは簡単だ。BUNCHIN は逆を選んだ。削って、絞って、ひとつの仮説に賭け、それを誠実に検証する。

文 鎮

ひとりで頑張る時間を、
ひとりにしない。

未来のわたしが、机の上にいる。— ただそこにいる。それだけで、戻れる。

BUNCHIN·DESIGN PHILOSOPHY